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2014年8月21日木曜日

監理と管理(5)

5/15の記事では建築家という職業に対する一般の方が持つイメージについてアンケート結果を参考として考えてみました。

実際に現場で汗を流して建物を作っている現場監督、施工業者、職人さんの思う建築家、設計事務所のイメージはこんな感じではないでしょうか?

「作る側の話を聞いてくれない」
「デザインばかり気にして無理な要求ばかりしてくる」
「現場の問題を施工者のせいばかりにする」
「現場のおさまりを全然知らないので打合せにならない」
「検査だと言って現場に来ても何も見ないで合格にしている」
「空調の聞いた現場事務所でふんぞり返ってエラそうにしているだけ」

辛辣な言葉ですが、いずれも現場で作り手側の人に実際聞いた話です。
設計事務所の人間である私に聞かせる言葉ですから、偽らない本心を聞くことができるのであればもっともっときつい表現になることは想像に難くありません。

3回目の記事にて触れましたように、施工者にとって監理者とは口うるさい存在であることは間違いありません。
だからこそ、チェック機関としての役目を果たすために「設計と施工は分離すべき」という主張をしてきたわけですが、その一方で監理者というのは現場で強い権力を持つことになります。

権力を持つ一方で課せられるのが責任の重さです。4回目の記事ではその責任を果たすため、我々が監理者として行っている仕事を紹介させていただきました。
読んでいただくには申し訳ない長文となってしまいましたが、これだけの仕事をしないと監理者の責任は果たせない、胸を張ってお施主様に建物を引き渡せないと考えております。

検査と呼ばれるものにはすべて立ち会い、現場を確認します。
夏の暑い日も、大雨の日も、もうすぐ雪が降りてくる寒い日も作業着+ヘルメット+安全靴というフル装備で現場に向かいます。
見落としがないように、足場の下や鉄筋の上を歩いて、泥だらけになって検査を行います。
鉄骨の製作状況を確認するため、遠隔地の鉄骨工場(福井や青森、新潟等々)まで日帰りで出向きます。
施工上のトラブルが起こったら即現場に駆けつけ施工者と対策を打合せします。
施工者からの書類や図面は細部にまで目を通して、チェックし修正を指示し、必要であれば打合せをして、製作や設置、施工の条件をヒアリングのうえ設計内容を微調整します。

これだけやると監理担当者にかかる労働量は相当なものです。
最近は短工期の現場が多い為、施工者同様監理者も検討・打合せにかけられる日にちは相当圧縮されています。そのため夜遅くまで仕事をしなくては仕事をまっとうできないという現場も多いのが現実です。

ここまで徹底して監理を行うと、施工者からは驚かれます。そこで「監理者としては当たり前の仕事をしていると思っているけど・・・」と言うと「実は・・・」という前置きで彼らが設計事務所のセンセイに抱いている印象を語ってくれるわけです。

それが冒頭に紹介した言葉です。

お断りしておきます。

人間はよくない印象のほうが得てして強烈に残ってしまうものです。また、うがった見方ではありますが我々を持ち上げる言葉としてあえて悪い例をあげてくれた方もいるでしょう。

我々には監理業務を遂行するための手間を惜しまない強い自負がありますが、同様の思いを胸に監理業務に励んでいる同業者の方もたくさんいるでしょう。私たちの監理が特殊例だと自惚れているつもりはありません。

ただ、権限に見合う指示やチェックを施工者に対して行っていない監理者がいることは間違いないようです。それどころか検査はすべて写真と書類による確認のみ(補足しておきますが、書類確認による監理そのものは認められております)、現場に来るのはお施主様がいるときのみなんて現場も少なくないとか・・・。

それゆえに「設計施工」でもまったく問題がないと考えられているのかもしれませんね。

「どうせ監理者なんていてもいなくてもかわらない」という気持ちと「監理者がいると仕事がやりにくい」という気持ちが重なると「設計施工」による受注をお願いしたくなるのも無理はありません。

しかし、私は知っています。
管理者(タケカン)に批判されるべき設計事務所がある一方で、監理者(サラカン)に批判されるべき施工者もいることを。

設計施工の経験しかない監督の知識のなさ、管理能力の低さに唖然としたことは一度や二度ではありません。
しかし、本人は最善を尽くして施工していると認識しているのです。
いつもこれで収めていると過去の実績で物事を判断して良いと信じ込んでいる、ひどい場合は下請け(専門家)に任せてあるから大丈夫と言い切る監督もいました。

そんな彼らの施工管理で完成させ、引き渡した建物が日本にはいくつもあるのです。担当者の能力次第で出来不出来が決定するのであればそれはもはやギャンブルであり、多額の費用をかけて行う建築の世界ではあってはならないことです。

もちろん、設計施工であっても自己研さんし、セルフチェックを厳しくし、しっかりとした施工管理をもって立派に建物を完成させてきた現場監督も多いでしょう。
ただ、一方では監理者不在でチェック機能が無い現場に慣れてしまった人材も多い。これは建築業界にとって大きな問題です。

こういう担当者とコンビを組むと我々は監理の仕事量を増やさざるを得ません。
当然このことはお施主様に起因する追加業務ではないため、その費用を請求することはできません。ほぼ常駐くらいのペースで現場に行くことになれば他の仕事はできなくなってしまうし、事務所内の打合せにも参加できなくなる、何より経営的な観点で言えば大赤字になってしまいます。

それでも我々は施工者に責任を押し付けて目を閉じてみないことはできません。

それは我々が負った責任を果たすためのプロフェッショナリズムであり、お施主様からいただいた信頼に対する使命であり、自分たちが設計した建物を胸をはって引き渡すためのプライドでもあります。

監理という仕事は最初の記事でも嘆いたようにその内容を認識していただいていることはほとんどありません。

しかし、建物が設計図の通りの品質であることや構造上安全なことを確認し、お施主様の代理人として現場で指示を出し、説明をし、最終的に引き渡し時に管理者とともに立ち会うという重要な役目であること、長い長い説明となり恐縮でしたが少しは感じていただければ幸いです。

最後に一つ。

建築基準法上は「工事監理者」を定めるのは「建築主」、つまり発注者である皆様です。

「○○さんに工事監理を依頼します」と決めるのはハウスメーカーでも工務店でもなく、何十年も建物を使用する皆様なのです。その選択権、指名する責任は放棄しないことを強くおすすめします。


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