前回の続きです。
「設計と施工は分離すべし」
私たちのこの主張とは反対に、東京都が2020 年東京五輪会場の整備に設計・施工一括発注(デザインビルド、DB)方式を導入することを発表しました。
とはいえ、適用対象について東京都は「競技会場にある施設のうち、DBによって事業を実施することが有効と考えられるもの」に限定し、「特殊な施設または施工の難易度が高い」、「竣工までの時間的猶予が少ない」といった条件を満たすものにのみ導入する考えを示しています。設計施工にメリットがあるものに限定して採用するということですね。
では設計施工のデメリットってなんでしょうか?
前回の記事で紹介した工事監理業務範囲の一覧には「○○の確認」「○○の承諾」「○○に助言」という仕事が多数含まれています。
工事管理者(現場監督・タケカン)の仕事に対していちいち口を出し、書類・図面を作らせて、書類や図面、工事の内容にケチをつけ、やり直しを命じる・・・これが我々監理者の仕事です(苦笑)。
さらに言えば、設計図書に従って見積参加者が作成した工事費見積書の内容を確認するのも監理者の大事な仕事です。
見積には必ず根拠が必要です。その根拠となるのが設計図です。逆に言えば見積書の内容は設計図の指示に従っている必要があります。それを確認するのも監理者の重要な仕事です。
工事費が安い理由が設計図の見落としや無理のある工事計画に起因するのであればそれをお施主様に報告し、施工者へ再見積を依頼することもあります。
これは設計変更が生じた際の追加工事見積が提出されたときも同様です。その内容が契約時の設計図及び見積書と比較して適正か否かを監理者が審査します。
このように並べてみるとわかることは、施工者の本音を探ると監理者は口うるさい煙たい存在だということですね。
設計施工というのは、この煙たい存在が施工者にとって「身内」になるということです。
このことにより間違いなく起こることは自主検査や自己チェックの甘さです。
設計施工の場合、監理者は施工会社の一員が担当します。図面による厳しいチェックを自分の身内に行える施工者が多いとは思えません。
設計施工のメリットとして主張されることがある、「設計者と施工者の責任の押し付け合いがなく、一括して最終責任を負います」という言葉、これは裏を返せばお互いのミスを隠しあうことができるということになります。
設計と施工を分離した場合は、間違いなく設計者はお施主様の味方になります。施工者へ望むことはただ一つ、図面の通りにつくってくれることです。工事のやり直しを何度指示しても監理者がお施主様からいただける監理料に変動はありません。
施工者の目標は「この仕事(工事)で利益を出すこと」です。これは仕事を請け負う以上は当然のことです。そのことを批判するつもりは毛頭ありません。請負金額より安い出費で工事を完了させることができれば、それは会社の利益となり、現場監督の手柄となるでしょう。
問題なのは、設計施工となると施工者が不利益をこうむる指示を出す立場=監理者も「施工会社の利益」を意識せざるを得なくなることです。
施工のやり直しによる材料や職人の手配、書類・図面の確認を徹底することにより生じるタイムロス、これらは間違いなく「施工会社の利益」を削っていきます。それでも「施工会社」所属の監理者が厳しいチェックができるでしょうか?
そしてそのチェックの甘さが引き起こした大きな問題がこのニュースです。
「熊谷組、横浜市のマンションで杭が支持層まで到達しない施工不良 ( コンポジット 6月9日 16:54 )
熊谷組は9日、同社が施工し平成15年3月に完成させた横浜市のマンションに関して、杭の一部が支持層まで到達していないという施工不良が見つかったことを発表した。
同社では、施工不良が生じた原因については、「杭工事において事前の調査ボーリングからは想定しえなかった支持層の急激な落ち込みがあったことに加え、杭穴先端部の掘削土から支持層と同種の土が確認されたことから支持層に到達したと判断したものと推察される」とした上で、詳細については、調査中とした。
その上で、当該マンションに居住中の住民に対しては仮住居へ移動してもらった上で、応急対策工事を「施工会社として誠心誠意、責任をもって」実施するとしている。
尚、応急対策工事の費用については、「その時点で判明している事象の範囲で引当金を計上しておりますが、今後追加の費用が必要となった場合は、適宜、特別損失処理を行う予定」としている。
このマンションは、住友不動産が販売したもので、通路の手すりがずれるトラブルが多発していたが、熊谷組は「東日本大震災が原因」としていた。その後、住友不動産が調査をすることで、杭が支持層まで到達しない施工不良が見つかった。」
本来であれば支持層が見つからなかった段階で設計変更と杭の再発注をするべきだったのですが、どの立場からもそのような指示は出なかったようです。お施主様のためより会社の利益を考えてしまい、結局は会社に損害と不名誉を与えてしまいました。
工事費の不透明さも設計施工の大きなデメリットです。
設計施工の場合は往々にして完全な実施設計図の完了を待たずに工事金額が決定している場合があります。
この金額は概算で提示されるものですが、予算の都合上更なる値引きを要求し、最終的にある金額で話がついたとします。
実はこれは値切ったことにも、値引きしたことにもなっていません。見積の根拠となる図面がないのですから。
決定した工事費で利益が出るように施工部門から設計部門に対して指示を出して、設計者はその金額で利益が出るように図面を書く。要するに金額に合わせた設計が出来るわけです。
逆に言えば設計図の重要性が低いということです。予算ありきで設計はどんどん変わっていく。そしてどのような仕様・性能の建物が建つのかをお施主様が把握できないということになります。
寿司5人前を頼んだら、自分の好きなネタが入っていなくてガッカリ・・・こんなことが起こりうるわけですね。
これに対して分離方式であれば最終の設計図による見積もり合わせという競争となるので、受注するために利益は低く抑えられます。
先の例えを引用すると「5人前とは何貫なのか?」「どのネタが何貫入っているのか?」「汁物はついているのか?」「子どもが好きなサーモンはサビ抜きか?」という細かい仕様は決定事項としていつでも確認できます。勝手にネタを赤身だけにしたりネタの大きさを小さくして利益を確保することは明確な指示がある以上不可能です。
設計監理者はお施主様から報酬を頂きますから、常にお施主様の味方です。
お施主様の味方として、建築の専門家と話をし、その意向を実現することのみ考えるのが我々の仕事です。そこに他の思惑は存在しません。
最後に・・・「設計」「監理」はサービスでできる仕事ではありません。
その人件費がゼロになるはずが無いことは少し考えれば分かることです。見積書に計上されない設計料は他の費目に紛れ込んでいるだけです。騙されないでください。これは設計施工のメリットでもなんでもありません。
次回からは監理者の仕事についてお話します。
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