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2014年7月25日金曜日

監理と管理(4)

前回の続きです。

2回目の記事で私が思う監理者の重要な役割を以下のように紹介させていただきました。

1)設計図書内容の正確な伝達
2)設計変更に対する検討及び指示
3)設計・施工のエラーに対するセーフティネット
4)建築主に対する現場状況の説明
5)建築主、施工者の対するアドバイザー

これを今日はもう少し具体的な例を交えて説明させていただきます。
なお、これは弊社にて行う監理においての手法や考えであり、全国的な指針や法規により求められている内容とは少し違います。

むしろ、我々の監理は「やりすぎ」と言われたりもします(苦笑)。
一般的な監理報酬以上の仕事をしている自負は強くもっております。




1)設計図書内容の正確な伝達

設計図には着工から竣工までに必要な情報のすべてがつまっています。そしてそれは時として膨大な情報量となります。
施工者はその情報のすべてを正確に受信し、実現に向けて検討をする義務があります。

その過程で、施工者が感じた疑義に対しての回答や正確な理解のための説明は設計監理者の重要な役割となります。時として施工者から生じた疑義により、設計図面上のミスや、よりよい建築とするための提案が生まれることもあります。

設計内容は熟慮をつくした最高のものであり、不整合などのミスはありえない・・・と胸をはっていうべきなのでしょうが、現実的には施工者からの指摘や提案が我々を救ってくれる、建物をよくしてくれることも多いのです。

立場上、指示指導の矢印は我々から施工者へ向かっていることが多いのですが、役割上そうなっているだけであり、設計者が全能なわけではありませんし、偉いわけでもありません。よりよい形にするための議論はむしろ我々も望むところです。

設計図を間においたディスカッションを事務所で行うことができる現場では出来のいい建物が竣工することが多いですね。

また設計者として図面を書いているとき、お施主様と打合せをしているときに感じた「施工が難しい箇所」「お施主様のこだわっている箇所」など、設計段階でこちらが得ている情報は早めにつたえ、十分な検討を行うよう指示をするのも大事な仕事です。ときにはいっしょに図面を書いて現場事務所で夜中まで議論することもあります(苦笑)。

2)設計変更に対する検討及び指示

工事契約を結んだ時点での最終設計図。実はこれに一切の追加要望や変更要望もないまま竣工を迎えるほうがまれです(笑)。
時間をかけて図面を見ていて思い浮かぶことや、契約後入ってくる情報により新たなお願い事が増える。必ずといっていいほどあるお話ですね。

工事の最中に予期しない出来事が起こり、望まない設計変更をしなくてはならないこと、これもまたよくあるお話です。

色々な理由で設計変更を余儀なくされることは我々の仕事としても折込済みといっていいくらいなのですが、もともと多数の図面を書く事で綿密に検討が繰り返されているのが一式の設計図です。ほんの少しの変更と思われていることが様々な項目の再検討を要する大規模な変更となること、これもまたよくあるお話です(笑)。

ここで重要なのが工事途中の設計変更は対応できない、お断りしなくてはならない場合もあるということです。

「変更を行うためには工事が進みすぎている」「法規に適合させることができなくなる」「工期に大きな影響が出て完成が遅れる」etc・・・これらの判断を時間をかけずに下す必要があります。

色々な条件を整理して、「では設計を変更しましょう」となった際には改めて設計図を書きなおします。これも工事の着手や材料・人の手配に間に合わせなくてはいけないのでやはり時間をかけずに図面を完成させ、施工者に渡し、指示を出す必要があります。

こういう変更作業は施工者にお任せでやらせてしまう設計者もいると聞きますが、自分の設計した図面はやはり自分の手で書き直したい我々は思います。

3)設計・施工のエラーに対するセーフティネット

監理者の仕事として外すことができないのが検査や承認です。

人の手により行われることということは、悪意や手抜きという言語道断な事態を除いて考えたとしても「うっかり」「見落とし」「間違え」が必ず起こる。
これは前提として考える必要があります。
職人が行った各工事を確認し、それが間違えのないことを確認し、その上で次の工程を指示することは現場監督の仕事なのですが、その現場監督のチェックにヒューマンエラーが起こると、取り返しがつかないことになります。

「施工ミスが発覚し、完成寸前に解体し建て直すことが決定したマンション」・・・これは大手と呼ばれる有名な施工会社が起こしたミスです。会社そのものの技術力を考えればありえないミスですが、実際に起こってしまったことです。
そしてこのことにより施工会社も居住者も多大な被害を受けることになります。

そのため、建物の骨組み(躯体)に関わる工事は現場監督に加えて監理者のチェックを受けること、そして監理者が施工のミスを確認したときはやり直しを命ずることとされています。責任を持ってチェック、確認する目を二重にするということですね。

真夏の暑い日に職人や現場監督が汗と埃にまみれて一生懸命施工した結果であっても、設計図や工事の標準仕様に違反している内容であればやり直しを命じる。これは建築士法に定められている工事監理者の責務です。

チェックを受けるのは施工者だけではありません。

ないように、ないように・・・そう思って何度も確認していても設計者にだってヒューマンエラーは起こることがあります。

それがおこってしまったときの対応は当然設計図の内容のすべてに責任を負う設計者になります。ミスが起こったときにそのミスをうまく回収して、お施主様の求めているコンセプトに沿う形で収束させていくか、設計図面にたいしての検査という観点でも監理者の役割は重要だと考えます。

4)建築主に対する現場状況の説明

お施主様は安くない投資をすることを決めて思い入れを持って建築工事というプロジェクトを見守っています。そして、プロジェクトにおいてはすべての権限を持っている最終責任者でもあります。

ただし、失礼な表現を承知で使わせていただければお施主様は建築の素人です。

現場監督から「これはムリです、できません」「こうするべきですよ」「建築とはこのようなものです」「これをやるなら追加工事費をお願いします」「いやいや、まったく問題ありません」・・・専門用語を交えながら説得されたときに、その言葉を理解し、それが正解か否かを判断し、最終責任者として指示を出せる人・・・・まずいませんよね。

このような専門家との話をお施主様のかわりにするのも監理者の仕事です。

「施工方法変更提案の検討」「工事完了後の金額の増減が適正な内容かの確認」etc・・・これらを施主側の専門家として現場監督と行うのも監理者の重要な役目です。

逆に今の現場の状況を素人であるお施主様に説明、報告するのも我々の仕事です。

今どういう工事をしているのか?問題は起こってないのか?ちゃんと工期は遅らせないで間に合わせてくれるのか?

現場に足を踏み入れたお施主様の疑問や不安に対して、噛み砕いた報告を行うのは施主側の専門家として当然の仕事です。

5)建築主、施工者の対するアドバイザー

つきはなした物言いですが・・・

工程の管理、施工精度(工事の出来不出来)については作る側に責任のすべてがあります。

設計指示の最終決断はお施主様にあります。

ですから、イエスマンに徹し自分の責任外の決定には関わらない、このようなスタンスでも設計監理の仕事はできます。

もっと言えば、これらのことに権力を発揮し、指示をすることは越権行為とも言えます。

それでもあくまでアドバイスとして意見を言うことは我々が専門家として現場に関わっていくために必要なのではないか?そう考えます。

内装材の品番、塗装の色、設備の選定・・・お施主様には施工の際中に様々な選択肢の中から最終的に一つを選ぶという大変な仕事が続きます。
数多あるメーカーの多い品数の中からたった一つを選び、それは少なくとも10年近く変更しない。

その決定権は重ねますがお施主様が持っております。ただし、そのことについてアドバイスを求められたら力になれますし、そうさせていただければ望外の喜びでございます。

また、あまりにも無理のある工程表や不出来な塗装、内装工事については再考、再施工を促すのも我々の仕事であると考えております。重ねて言いますが本来は施工の出来不出来の確認及び再施工の指示は施工者の役目であり、我々が責を負う項目ではないのですが、その場にいる専門家の一人としてまったく関わらない、無視することなどできるはずもありません。

工事は人の手がやること、コンピューターで操作するみたいに少しの狂いもない施工は不可能ではありますが、そこに近づくために努力することは施工者の役目です。

その目標に現場を近づけるため、現場監督だけでは見て回れない工事の出来不出来のチェックも我々は行っています。

補足させていただきますが、設計性能を保てないような施工不良は瑕疵であり再施工を指示するのは監理者の責務です。
ここでいう「工事の出来不出来」というのは塗装の色むらやタイルの目違い、下地材の凹凸といった性能の出来不出来ではなく見栄えに限定される箇所を指しております。

以上、長々と我々が設計完了後に現場内で行っている仕事について語らせていただきました。

ところが、この長文を読んでくださっている現場監督をはじめとする作る側の立場の方の中にはこう思う方がいるでしょう。

「こんなに現場に顔出す設計者なんて見たことない」「結局作るのはこっちの仕事。監理者なんて現場のことは何も知らないくせに」

辛辣な言葉ではありますが、設計者・監理者に対してこういう認識を持つ作り手は少なくありません。監理者はいてもじゃまなだけ、いないほうがスムーズに現場が回るという正直な思いですね。

次回はなぜ監理という仕事が理解されていないのか?軽く扱われているのかについて考えてみます。










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